チワワのしつけと飼い方

なぜ生後45日なのか?

 

すでに犬と暮らしている人、これから犬を飼おうと思っている人、そのすべての皆さんに、かかわっている問題があります。それはたった一つのことです。

 

子イヌを家庭に迎える時期は、いつ頃が望ましいのか?

 

あなたの周囲にどんなイヌがいるか、散歩コースで、動物病院で、どんなイヌと出合うのか。ドッグランにどんなイヌが集まるか、旅先にどんなイヌがいるのか、出合うのは、友好的なイヌか、敵対的なイヌか、やさしいイヌか、怖いイヌか、ゆったりと落ち着いたイヌか、臆病で落ち着きのないイヌか……決して無関心でいられないはずです。これらはあなたの問題であると同時に、あなたと暮らすイヌの問題です。

 

さて、私たちが目を向けるべきは、子イヌをめぐる私たちの国の現状です。

 

皆さんは、子イヌが野菜や鮮魚と同じように競り落とされている、という現実をご存知でしょうか? 日本ではペットショップで夥しい数の子イヌが販売されていますが、この子イヌたちは生後どのくらいまで親きょうだいと共に過ごしているのでしょうか?

 

従来、この件については、きちんとしたデータがなく、憶測で「生後○日〜×日くらいではないか」と語られていました。しかし2006年度に、環境省が調査をしています。2007年の環境省・動物愛護部会では、全国ペット小売業協会(現在は、組織変更されて「全国ペット協会」)を対象に行なったアンケートの結果が報告されています。

 

それによると、ショップ(小売業者)がオークション(競り市)や卸売業者から仕入れる際の、子イヌの平均日齢は41〜43日だということです。

 

全国ペット小売業協会では、ショップでの販売日齢を45日に自主規制していますが、協会の組織率は2割にも達していません。残り8割のペットショップの実態は把握されていないということです。非加盟のショップではさらに幼齢犬が仕入れられている、という指摘があります。

 

なぜ、生後45日なのでしょうか? ペットショップを覗いてみると、生後45日前後のイヌに最高価格の値札がつけられています。理由はいたって明快です。この時期の子イヌの見た目が、一番かわいいからです。

 

それともう一つ。「費用対効果」というブリーダーにとっての関心事です。離乳もままならない生後35日くらいまでに母イヌから引き離せば、食餌や清掃にかかわる手間とコストをほとんど(まったく)かけずに済むのです。

 

イヌのオークションは、1980年代の終わり頃から導入された日本特有の流通システムです。背景としては、イヌの市場規模の拡大が指摘されています。オークション会場は、全国に約20ヵ所あり、毎週開催されています。

 

『AERA』(朝日新聞社)の調査によれば、2008年の時点で、推計約59万5000頭にのぼるイヌの売買の約73%はペットショップを通して行なわれており、流通全体の約55%はオークションで取引されています。このオークションでは、子イヌの両親の情報は明らかにされません。

 

皆さんから悲鳴が聞こえてきそうな「虐待」をしているブリーダーからも、子イヌが出荷され、競りにかけられています。たとえば、その母イヌは、帝王切開された疵口が膿んだまま放置されていたり、ケガをした足先が治療されず腐っていたりしているということです。

 

イヌの取引について、諸外国では、8週齢規制という取り決めがあります。

 

イギリスやスウェーデン、アメリカ、オーストラリアのニューサウスウェールズ州やビクトリア州などでは、法律によって、8週齡に達しないイヌの売買は禁止されています。

 

ドイツの法律では、「子イヌを8週齢未満で母イヌから引き離してはいけない。ただしイヌの生命を救うためやむをえない場合を除くが、その場合であっても引き離された子イヌは8週齢まではいっしょに育てなければならない」と規定され、病気になった母体や虐待されているイヌの救出にまで配慮した内容になっています。

 

しかしこの8週齢規制は、あくまでも最低ラインです。ドイツでは、9週齢から10週齢頃の子イヌが販売・譲渡されるのが一般的で、生後4ヵ月で家庭に迎えるという事例も珍しくありません。ところが、日本はどうでしょう。環境省の告示(第104号)で「子イヌを離乳前に譲渡しないように努めるとともに、社会化が十分に図られた後に譲渡するよう努めること」というガイドラインが示されているだけです。

 

「子イヌ生産工場」の内幕

 

日本の繁殖施設の中には、「パピーミル」と呼ばれる施設があります。文字通り「子イヌ繁殖工場」です。イヌを狭いゲージに閉じ込め、ひんぱんに繁殖をくりかえします。

 

皆さんはあまり聞きなれないかもしれない「パピーミル」ですが、いったいどんなところなのでしょうか? その生々しい内幕を明かしましょう。

 

2006年12月のことです。佐賀県鹿島市の繁殖施設コウエイドッグハウスが、県の保健福祉事務所から立ち入り検査を受け、繁殖場から白骨化・ミイラ化した12頭のイヌの死骸が発見されました。

 

当時、このコウエイドッグハウスでは、約100頭が繁殖場で飼育され、ここが経営する佐賀市内のショップには約50頭がいました。繁殖場で飼育されていたのは、主に秋田犬と柴犬でした。他の犬種は、ビーグル、セター、パピヨン、ゴーキー、それに皮膚病にかかってほとんど見分けがつかなくなっているプードルらしきイヌなどで、ほとんど「飼い殺し」状る態で収容されていたということです。

 

発端は、同年11月に動物保護団体ワンライフの元へ舞い込んだ一通のメールでした。

 

犬を救ってやってほしい

 

メールの送り主は、この繁殖場の近くの住民でした。現場を見るに見かねて動物保護団体へ通報したのです。数日すると、ふたたびメールが届きました。現場で撮影された写真が添付されています。画像には、ミイラ化したイヌが写っています。ミイラになっても鎖につながれたままで横たわっているのです。

 

「一刻も早く行政に指導に入ってもらい、現場の環境改善を……」と思い、佐賀県の担当部署へ電話連絡しました。しかし担当者からは迅速な対応が望めませんでした。

 

自分だけでは手に負えないと直感したため、兵庫県の動物保護団体ARK(アニマルレフュージュ関西)のエリザベス・オリバーさんらに応援を求め、12月13日、現場へ向かいました。

 

まず目に飛び込んできたのは、秋田犬です。鎖につながれたままです。ここには屋根がありません。エサも水も見当たりません。つながれているイヌは他にもいます。繁殖場の建物は、元は牛舎だったようです。光のほとんど入らないその建物の中へ足を踏み入れてみると、イヌたちの居場所は、排泄物と雨水が浸って湿気を帯びた板の上でした。

 

足先に何かが当たりました。目を凝らしてみると、放置されたままのイヌの白骨死体が2体転がっています。そのすぐわきをイヌが歩いています。思わず息を呑みました。

 

ゲージの中にもイヌたちの姿が見えました。イヌたちはどうしていたのでしょうか? 糞尿と抜け毛の上に放置されていました。エサ入れは空っぽでした。水のない容器には青藻がこびりついています。給餌や給水が行なわれている形跡はまったくありません。近所の人の話によると、この繁殖場では週に1度か2度しか人の姿を見かけないといいます。

 

さらに驚いたのは、不自然な形状のビニール袋でした。袋の中を開けてみると、死んだイヌが入っています。

 

現場から離れようとすると、一頭のイヌが鳴きながら隙間から顔を出しました。「助けて!」。そう聞こえました。

 

一行はこの業者の経営する市内のペットショップへと急ぎました。

 

店内のゲージの中に見えるのは、やはり堆積した汚物、排泄物でした。その上には、絶望した瞳のイヌたちが横だわっていました。店の外では、10頭ほどのチワワが犬舎もあてがわれず、コンクリートの上でぶるぶる震えています。

 

経営者の男は、死骸を放置している理由について、「前年の夏に交通事故にあい、イヌの世話があまりできなくなった。イヌたちを死なせてしまったので、保険会社への証拠として残している」と説明したということです。

 

数日後、佐賀県庁には、ワンライフから現場の写真付きの「報告書」が送付され、その後も申し立てが続きました。インターネットのブログで事件が公表されたことで、佐賀県庁の担当部署へ抗議の電話やメールがかなり寄せられたようです。また、同保護団体が環境省に通報したことで、黙過できないと判断した環境省が佐賀県庁に改善をうながしたという情報もあります。

 

こうした中、繁殖業者には県から改善勧告が出されました。しかしこの業者は指定された期限までに飼育状況を改善しなかったので、県によって県警へ告発されました。

 

ワンライフによると、このペットショップは県の所有地を「不法占拠」して建てられていて、経営者の男はそこで寝起きしていたということです。また、07年4月の時点では、現場に残されていたはずの104頭のうちの21頭のイヌが行方不明になっていたということです。

 

その後、男はいったん不起訴になっていますが、後に、検察審査会(公訴権の実行について民意を反映させて適正を図ることを名目にした機関で、審査員は各区域の有権者の中から抽選で選ばれることになっている)が、「不起訴不当」の議決をし、これをうけた佐賀地検は、事件から3年が経過した2009年8月になってようやく、「犬を虐待した罪(動物愛護法違反)」で経営者の男を在宅起訴しています。

 

起訴状からは、イヌを不衛生な環境で育て餓死させただけでなく、狂犬病の予防注射も怠っていたことが明らかになっています。検察は「保護された柴犬は体重が通常の半分以下で、自力で立てない状態だった」としています。

 

さらに問題なのは、その後です。経営者の男は、動物取扱業の登録を抹消されていますが、近隣住民などの屏言によれば、起訴処分となった後も繁殖業を続け、他のブリーダーに繁殖したイヌを「横流し」しているということです。

 

信じがたいことですが、コウエイドッグハウスについては、従来から「いい柴をつくる」という評判が立っていたそうです。実際、この男からこっそりと柴犬を買っていく人が最近でもいるということです。

 

こうしたパピーミルは、この施設に限った話ではありません。ここまで給餌や清掃がずさんでないとしても、似たような施設は全国各地にあるのです。経営破たんしてニュースになったり、ネット上で告発されたりするのは、その内のごく一部にすぎません。

 

パピーミルは、ふつう人里から離れた地域にあるので一般の住民の目にはふれにくいということです。営業が成り立っているのは、パピーミルが直営しているショップが市街地にある、オークションに卸売りする、提携しているペットショップが存在する。この三つの理由からです。また、近年はインターネット販売も拡大しています。ネットなら都合のいい画像だけを見せることができます。

 

パピーミルは日本だけでなくアメリカでも問題になっています。

 

米国人道協会(HSUS)の2008年の報告によると、アメリカ全土にあるペットショップ1万1000店舗のうちの約3分の1で子イヌが販売されていて、それらの多くはパピーミルで繁殖されたものだということです。

 

頭の形で脳機能がちがう?

 

ここまで話してきたように、日本の犬の流通システムそのものに、真っ当でないイヌが生み出される原因が潜んでいるのです。

 

しかし子イヌが親きょうだいから早期に引き離されることだけに、問題があるわけではありません。「見栄え」や「奇抜さ」を優先する繁殖。ここに、もう一つの大きな問題があるのです。

 

この点は以前から、特にドイツ語圈の獣医師によって、警鐘が鳴らされてきました。ウィーン大学の動物遺伝学研究所は、62頭のジャーマン・ロングヘアード・ポインターの体質調査を行ないました。すると、「外見的美しさ」と「性能」は負の相関関係にあることがわかったということです。

 

ドックショーで優秀な成績を修めるようなポインターは、現場で働く能力が低い傾向があると報告されています。たとえば、気まぐれな行動をとる、狩猟意欲がない、銃声におびえるなどです。同研究所は、ブリーディングースタンダード(犬種標準)にこだわりすぎるあまり、近親交配をくり返すブリーディングのあり方を見直すべきだと主張しました。

 

ごく最近の研究の動向を紹介しましよう。

 

オーストラリアの科学者たちは、MRI(磁気共鳴映像法)を用いて、イヌの脳を分析しました。すると、新しい発見があったといいます。グレーハウンド、イングリッシュ・スブリンガー・スパニエル、オーストラリアン・キャトル・ドッグ、秋田犬、ジャック・ラッセル・テリア、シー・ズーなど10犬種の脳を解析したところ、パグのような丸い形の頭の場合、通常より脳が前方にあり、嗅覚の情報処理に関わる部分かきわめて低い位置に下がっていることがわかったというのです。

 

この発見は、イヌが嗅覚で感じとる世界が頭の形によって大きく異なるかもしれない、ということを示唆しています。検査にあたったニューサウスウェールズ大学の研究者によれば、イヌの頭の形に伴う脳のこうした組織的変化は、脳機能の点でもちかってくる可能性があるということです。この点については、今後の解明が必要だと思います。

 

脳機能の点で科学者にクエスチョンマークを付けられてしまったパグですが、この犬種は、見た目を愛くるしくしようとして、頭骨を丸くコンパクトに「品種改良」されたことで、水頭症をひきおこしやすいと言われています。

 

パグだけではありません。チワワやヨークシャー・テリア、トイ・プードルなどの小型火、あるいはポメラニアンやマルチーズ、フレンチーブルドッグ、ボストンーテリアなどにも水頭症が多いと報告されています。この病気は、脳室内などに脳脊髄液がたまり、脳の組織が圧迫されることで様々な知覚障害をおこします。イヌの安全のためには、常に病状をチェックする必要があり、獣医師によれば、この病気になると、飼い主が家庭で介護するのは難しいとされています。

 

当たり前のことですが、脳は頭骨によって保護されています。しかし変形させられた頭骨では、この当たり前のことが保証されません。頭の骨が閉塞していない個体もあると指摘されているのです。ちょっとしたはずみで脳がダメージをうけやすくなるということです。神経に異常をきたせば、不全麻痺になったりするなど深刻な行動障害につながります。

 

ケネルクラブの新しい動向

 

一方、ここに来てブリーディング・スタンダードのあり方を見直す勣きが生まれています。2009年、KC(イギリスのケネルクラブ)が、見た目より健康を重視していこう、という方向へ舵を切ったのです。

 

たとえば、次のような規定が変更点として追加されています。

 

過剰な鼻のしわは認めない
毛によってイヌの視覚に影響が出ないように
体と地面のあいだは自由に動ける余裕を

 

皆さんは、どの犬種のことを言っているか、わかりますか?

 

「過剰な鼻のしわ」はパグ。「視覚の影響」はシー・ズー。「体と地面のあいた」はダックスフントでの変更点です。イギリスでかつて闘犬に使われていたブルドッグの場合、「上唇が両あごより下に垂れ下がる」という表記が削られました。他にも多くの犬種で見直しがなされ、209項目が変更されています。

 

209項目の中では、チワワの毛色についての注目すべき取り決めがありました。人気の高いマールカラーのチワワの登録が禁止になったのです。大理石模様を持つマールカラーは、コリー種などに見られる毛色で、チワワという犬種には、本来、存在する毛色ではありません。登録の禁止には、マールカラーをつくり出したことで、聴覚や視覚に障害を抱えるチワワが続出したという背景があるようです。

 

同様の理由から、ダックスフントのダブルダッフルも認められなくなりました。ダブルダッフルというのは、ダッフルの毛色を持つ個体どうしの交配によって、マール遺伝子が二つ並んだ状態のことです。このダブルダッフルに関しては、脳神経への悪影響も懸念されています。

 

こうしたKCの動きは、日本のケネルクラブであるJKCにも波及し、現在、日本でもブリーディング・スタンダードの見直しがすすめられています。

 

チワワについて言えば、従来、毛色について、こんなふうに規定されていました。「全ての色調および組み合わせが認められる」。これが変更され、「マールカラー以外の」という文言が付加されました。

 

サイズについても、理想体重が1.5〜3に昿のあいたとされ、従来の500g〜3sというきょくたんに小さい基準を引き上げました。チワワについての詳しいことは https://チワワしつけ.jp/ をみるとよくわかりす。

 

こうした動きがなぜもっと早くおきなかったのでしょうか。さらなる健康重視の見直しと繁殖面での実行が求められているといえるでしょう。